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Brandish -Game Pre Story
流浪の剣士

夕暮れになった頃、一人の男がバノウルドの街に着いた。
酒場の看板の文字がかろうじて読める明るさだった。看板にはビトリック語で「マロドの店」と掲げられていた。
「マロド」とは「賓客」を意味する言葉だ。
吹き溜まりの酒場にしては気の利いた冗談だと、男は思った。
長旅で砂塵にもまれたのか、男は汚れた姿で酒場の前に立っていた。
麻の衣服も見ずぼらしく薄汚れ、脛に巻いた脚絆には乾いた土がこびりついている。取り立てて筋肉質でもなく、一見すればただの中肉中背のどこにでもいそうな男だった。
酒場の扉を開ける時、腰に巻いた長剣がカチャリと音を立てた。
「おっと、待ちな」
でっぷりとした男が、ドスのきいた声で進路をふさいだ。
「この酒場はお尋ね者しか入れねぇんだ。それもちょっとばかしの賞金首じゃダメだぜ・・・・・・」
門番とばかりに侵入者を値踏みする横柄な態度だった。
酒場から漏れたランプの明かりが薄汚れた男の顔を映し出す。
その顔を見て、でっぷりとした男は息を止め、口をつぐんだ。
薄汚れた男の名はアレスと言った。ある時は賞金首として追われ、またある時は賞金稼ぎとして追う側に回ることもある。すべては成り行きまかせ、傭兵にもなれば用心棒にもなる、脈絡のない男だった。
どこの壁にも彼の人相描きは貼られているが、手強すぎて誰も手が出せない。
もっかのところ、アレスはそういった賞金首だった。

騒がしい酒場だった。酒の匂い。あぶった香草の出す煙。足を拡げて酒を呑む男たち。どの面構えも四、五人は殺したことがありそうな顔をしていた。
アレスは男たちの間を抜けて、奥のテーブルに向かった。
通りすぎたテーブルの声が大きい。
「北東の大穴には行ってみたかい。面白れえほどのお宝が眠っているらしい」
「化物がうようよいるそうじゃないか・・・・・・」
「ここに集まった賞金首みたいにか。お前の首にはいくら懸かっているんだ?」
男たちはすすけた壁に目をやると、黄ばんだ肖像画が所狭しと貼り列ねてあった。
「なんだ、たったの50ゴールドか・・・・・・」
相席の男が、目の前の男の顔と同じ顔の描かれた似顔絵を、つまらなそうに言った。
「どいつが一番値がいいんだ。」
「そりゃ、あいつだろうな。百万ゴールドの賞金首だ」
目ざとい男が入ってきたアレスに気づいて言った。
誰かが口笛を鳴らした。
「こりゃー大物がかかったぜ」
「ここまで来た甲斐があったってもんだ」
「よせよ、同業のよしみで忠告するが、あいつにだけは関わらねぇ方がいいぜ」
アレス一人を片付ければ、当分贅沢をするだけの金が得られる。いくらやめた方が無難だといわれても獲らぬ皮算用によだれを垂らし出す者までいた。
ただの場末の酒場なら、この場で斬り合いが始まっても不思議はなかった。
だが、ここは一流の賞金稼ぎと賞金首が集う酒場だ。互いを値踏みするためにつくられた暗黙の中立地帯だった。頼んだ酒を呑み、酒場を出るまではすべては保留だった。
アレスは背中に刺すような視線を集めながら、しばらくの間、酒を楽しむことに決め込んだ。
 

「大穴のことを聞きたいのかね」
もう何度も同じことをはなしたのだろう。店番の老人はわずかなチップで流れるように語り始めた。
「バノウルドの北東に小さな湖ほどの広さがある大穴が口を開けておる。人間の欲望が形となった穴じゃ。一攫千金を狙い、金を目当てに集まってきた男たちが掘り起こしたものじゃ。数年前、物好きな山師が一粒の金を見つけて以来、何もなかった大地にあっという間に巨大な穴が出来あがった。大穴は摺り鉢状に掘られ、ちょうど段々畑のように一断層ずつ土をむき出しにして深みへと下がっていく。そうさの
う・・・・・・外周はらせん状につながっておって、穴の底まで荷車を引けるようになっておったわ。噂を聞きつけて集まってくる者はあとをたたず、瞬く間に付近には人足たちのバラック小屋が立ち並んだのさ。じゃがな、大穴がゴールドラッシュに湧いたのも、一年前までじゃった。ある日、最深部を掘っていた人足がツルハシの予想外の手応えに作業の手を止めた。驚くべきことに、崩れた土は地面の内側に吸い込まれた。人間が掘った大穴の下に、地中に封じられた空間が見つかったのじゃ。その日から、何かが変わった。行方不明の者が続出し、奇妙なうめき声を聞いた者や化物を見たという者が現われ始めた。初めはよくある利害絡みの顔役の謀略くらいに思っておった。ところが、いつの頃からか人足たちの間に、夜な夜な大穴から這い上がり人間を襲う化物の噂が広まったのじゃ。金が目当ての男たちといっても所詮は命あってのものだった。一人、また一人とこの穴を離れ、あれほど人集まりのあった大穴も、ついに誰もいなくなってしまったというわけじゃよ。あんた、行ってみるかい?いくらあんたの腕っぷしでも、保証はできないよ」

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